しかし、この重い旅のスタイルが大きく変わったのは、画期的なイノベーション、すなわち車輪が登場してからです。長い間、人々はスーツケースを肩に担いだり、手で運んだりすることに慣れていました。1970年、Bernard Sadowというアメリカ人ビジネスマンが、空港で重い荷物を運ぶ苦労を見て思いつき、スーツケースの底に小さな車輪を4つ取り付け、紐で引くことを考案しました。このデザインは当時広く受け入れられませんでしたが、スーツケースの歴史における最も重要な一歩であったことは間違いありません。

本当の意味で車輪が普及し始めたのは、それから10年後、アメリカのノースウエスト航空のパイロットであるRobert Plathの功績でした。彼は、車輪と伸縮式のハンドルを組み合わせた、いわゆる「ローラーボード」を発明しました。これにより、スーツケースは手で引くことが可能になり、旅行者はポーターに頼ることなく、自分で荷物を楽に運べるようになりました。この瞬間から、スーツケースはもはや運ぶための重い荷物ではなく、誰もが気軽に旅に連れて行ける「旅の相棒」となったのです。この発明は、旅行を特権から大衆のものへと変える、まさに社会的な革命でした。